泌尿器分野のがんについて
泌尿器のがん多くは無症状ですが、血尿をきっかけに発見されることがあります。血尿には見た目でわかる肉眼的血尿と、見た目ではわからず採尿して検査することでわかる顕微鏡的血尿があります。どちらも尿を作る腎臓、尿の通り道である尿管、膀胱、尿道などの尿路に出血が起こっていることを示しており、重大な病気の症状として現れることがあります。
特に、排尿痛などをともなわない肉眼的血尿はがんの疑いが高く、膀胱がんの85%は肉眼的血尿により発見されていますし、腎臓がんも検診以外では肉眼的血尿による発見が少なくありません。また、一度血尿が出た後、止まったからと言って安心はできません。一度でも血尿に気づいたら、他に症状がなくてもできるだけ早く泌尿器科を受診するようにしてください。
前立腺がん
肺癌、胃癌、大腸がんとともに男性がかかるがんで最も多いがんのひとつです。年間約10万人が新たに前立腺がんと診断され、約1万人以上が命を落としており、その数は増加の一途です。前立腺がんはPSA(ピーエスエー)という血液検査で早期発見が可能ですが、日本ではまだまだ普及が十分でなく男性の約10%程度しか検査を受けていないと言われています。横浜市の検診でもオプションとなっています。一方、欧米では男性の70-80%がPSA検診を受けており、その効果か、近年は前立腺がんの死亡率が低下しています。今までに検査を受けていらっしゃらない方は、ぜひ一度ご確認することをおすすめします。
診断
進行した場合には排尿障害や血尿といった症状が出ることがありますが、通常、自覚症状はなく、近年ではPSAの検査異常で受診されることが多いです。進行した場合、前立腺がんは骨へ転移することが多く、骨の痛みや、骨折によって気づかれることがあります。ただ、PSAが高かった場合でも、前立腺がんであるとは限りません。PSA自体は正常な前立腺にも存在しており、前立腺肥大症や前立腺炎、体調などによっても数字が上がることがあります。したがって、PSAが高かった場合、これらの疾患がないかどうかを確認すると同時に、もう一度PSAの値を確認したうえで、精密検査が必要かどうか、検討いたします。
精密検査が必要と判断した場合には連携病院に紹介させていただき、MRI、前立腺針生検術等でがんの有無を確定します。もしも、がんがあることが確定した場合にはCTや、骨シンチ等で転移の有無を確認したうえで、治療方針を検討します。がんがなかった場合には、当院で引き続き経過を見させていただきます。
治療
転移がない場合、手術(腹腔鏡、ロボット手術等)や放射線治療(IMRT、ブラキセラピー等)で根治を目指します。転移があった場合や、ご年齢、合併症等で根治療法が困難な場合はホルモン治療を行います。前立腺がんは男性ホルモンで増殖するため、注射と飲み薬で男性ホルモンを抑える方法です。ホルモン治療はよく効きますが、がんを完全になくすことはできないため、基本的に治療は継続して行うことになります。
当院ではホルモン治療や、治療後の経過観察が可能です。連携病院と協力しながら、地域の前立腺がんの診断、治療に貢献できればと考えております。
膀胱がん
診断
血尿が見られた場合、一般的な尿検査に加え、尿にがん細胞が混じっていないかの検査(尿細胞診)を行います。また、超音波検査で膀胱内の腫瘍の有無を調べると同時に、膀胱がんと合併することがある尿管がん、腎盂がんがないかどうかについても確認します。ただし、尿細胞診や超音波検査では小さな膀胱がんはわかりません。そのため、膀胱の中をファイバースコープで観察する必要があります。従来は硬い金属のカメラで行っていたため相当に苦痛があったのですが、当院では痛みの少ない最新の軟性膀胱鏡で検査を行います。鎮痛薬を含んだゼリーを用いて痛みにも配慮して行います。もしも膀胱がんが見つかった場合は速やかに連携病院へ紹介させていただきます。膀胱がんの8割は筋層脾浸潤癌(膀胱粘膜にとどまる)で、1週間程度の入院で経尿道的に(内視鏡で)治療ができます。ただし、膀胱がんは非常に再発しやすく、約半数で再発します。そのため、再発予防のために膀胱内に抗がん剤またはBCGという薬剤を注入する場合もありますが、効果は十分とは言えません。したがってその後も定期的な膀胱鏡での確認が極めて重要です。
当院では病診連携を積極的に行っており、手術後の膀胱鏡による経過観察は院長が責任をもって見させていただきます。
腎臓がん
腎臓は左右の腰の付近に1つずつある握りこぶし大の組織で、血液をろ過して尿を作っている臓器です。男女合わせて年間約3万人が新たに腎臓がんと診断されますが、男性に約2倍多く発生します。喫煙、長期間の透析の他、肥満や高血圧も危険因子と考えられています。特に透析中の方は定期的なチェックが必要です。以前は血尿、疼痛、腹部腫瘤といった症状で見つかることがありましたが、最近はCTや超音波検査でたまたま見つかる早期がんの割合が増えてきています。もしも腎臓がんが見つかった場合は速やかに適切な治療ができる連携病院へ紹介させていただきます。治療の基本は外科的な切除です。腎臓がんの場合は転移があっても外科的切除が有効なことがあります。以前は開腹手術で腫瘍を腎臓ごと摘出していましたが、最近では腹腔鏡を用いた手術がスタンダードとなり、さらに、手術後の腎機能を少しでも温存するために部分切除術も積極的に行われるようになりました。近年ではロボットを用いた手術も行われ始めています。一方、ご年齢、合併症等で手術が困難な場合には、皮膚から針を刺してがんを凍らせて死滅させる、という凍結療法もあります。一方、すでに転移があるような場合には、全身に効果のある薬物療法の適応となります。血管新生を阻害する分子標的薬が用いられますが、それでも進行が抑えれない場合には免疫チェックポイント阻害薬が適応となります。
精巣がん
精巣癌の発生率は人口10万人あたり1-2人と稀ながんですが、20-30歳の男性に多く発生し、この年代では最も多いがんです。比較的悪性度が高く、早期から転移をきたすことがあるため、なるべく早く治療を行うことが大切です。精巣が痛みを伴わず、大きくなっているような場合は、恥ずかしがらずに泌尿器科を受診してください。触診、超音波検査で精巣がんが疑われた場合は速やかに連携病院へ紹介させていただきます。
精巣がんの約半数は精巣に限局したがんで、手術で取り切れます。その後は注意深い経過観察が行われることが多いですが、時に再発予防の抗がん剤治療を行うこともあります。すでに転移のある進行性精巣がんの場合も、精巣がんは比較的抗がん剤がよく効くため、根治が望めます。ただし、再発の可能性もあり、治療後も定期的な受診は非常に大切です。